「羽二重」と「バイアス」と「つまみ細工」
シルク素材を使った伝統のつまみ細工 (京都の花簪・江戸つまみ簪)が時々美しいのかについて考えてみました。
「つまみ細工はどんな場所が特徴でどんな場所が美しいのですか?」と聞かれた時に一凛堂としてきちんとしたご説明が出来る様にしたいとの思いからです。
つまみ細工の伝統文化を継承し続ける上で必要なことであり、つまみ細工を作ることを楽しむ皆さんにも広く知っていただける事が、長く長く遺していくためにも重要なことだと考えました。
1.シルクとは
シルクの糸は約5,000〜6,000年前に中国で作られました。
1匹の蚕が吐く繭糸は1本で1,000〜1,500mあります。
糸は全てタンパク質で出来上がっており、中央の「フィブロイン」という芯の外側を「セリシン」という化粧品などに使われる物質で表現されています。
これを束ねて生糸を作り、「精錬」と言う外側のセリシンを洗い流してフィブロインのみとしたものが「シルクの糸」になります。
日本のシルク素材はほとんどが「後染め」と言い、染色前の繭糸を織り上げてから色づくつけのが特徴です。
(タイシルクやシルクインドなどは先染めと言い、繭糸を先に染めてから糸の色や濃淡を変えて織り上げられる = シャンブレーという生地が代表的です)
シルクの羽の二重生地は古くはパラシュートにも使われたという歴史もあります。
2.羽二重とは
1本糸に撚り(より)をかけないものを「無撚糸」(むねんし)といい、これを平織り(縦糸と横糸を対話に織り上げる)する際に縦糸を2本使うから羽二重(縦糸が二重)と呼ばれています。
つまみ細工で主に使われる素材の中で一番薄いとされている「4匁」の羽二重も、実際にはデンプンペーストなどで硬く仕上げられている為、重さ(薄さ)だけを言っているのは正式には正しくありません。
●匁(もんめ)は重さの単位で絹織物の規格サイズ(93×93cm)で3.75gになります。
●極薄の羽二重生地でも糊びきを施した生地は当然のことですが重くなります。
なかなかシルクで作られる「シルクちりめん」生地は約1㎡で180-200gとされているので、羽二重生地がなんだか軽くお楽しみになると思います。
織り込んだ生地を染める際には撚りがないことで艶感が抑えられる代わりにある色になり、古いより「そこはかとない」和の色が表現されてきました。
また、撚りをかけた糸を平織りした生地を「シフォン」と呼びます。
糸に撚りがかかっていないものは糸の表面の凹凸が少なく、つるんとして光を反射しやすい為、織り上げられた生地には艶があるのが特徴です。
シフォン生地は撚りがあるので、糸の表面に凹凸が出来ることで光を吸収するため、無撚糸に比べて艶が落ちます。
反対に極薄の障子紙を通した様な繊細で淡い色が表現できます。
3.偏見とは
本来の言葉の意味は「前向き」や「ハスに構える」「世の中を斜めに見ている」などに転用されている言葉ですが、繊維用語としては「斜め(45度)」と言う意味で使われます。
正確45度(斜め)の状態を「正バイアス」と呼びます。
シルクの繊維は柔軟性が高いため、これを正バイアスで折ると反発による独特の緊張感が出来、スカーフの限界の美しさはシルクの生地を斜めに折ることで表現されていると言えます。
シルクのネクタイも正バイアスに縫製されるようになるため、結び目が解きやすく、解消されてもシワになりやすい、ディンプル(結び目)が最も綺麗などの理由から設計されています。

これらの事からも「つまみ細工の花弁は平織りの平織りを正バイアスで支えむことで
美しさが表現できる」という事が言えます。
逆に生地を重点で裁断(ろう切)しようとしても繊維構造の伸縮性で生地が押されると思った通りに切れませ
ん。
参考:福島県川俣地方に伝わる伝統製法「濡れ横」

一凜堂の羽二重生地は福島県の川俣地方にある紺野機業場で織られています。
「濡れ横」とは横糸を水に濡らしてから織り上げるという川地方俣に伝わる伝統製法
で、歪みの少ない極薄の羽二重生地は伝統的な江戸つまみかんざしに欠かせない素材です
。
乾いた状態ではハリがありすぎ、細かく打ち込むと折れやすい/糸切れしやすい
為、湿らせることで糸内部のタンパク質(セリシン・フィブロイン)が一時的に柔らかくなり
、糸どうしの摩擦・着圧性が上がまた
、水分によって糸が少し増えることで、織り上がり後も均一で整った「タテ・ヨコの目」が得られやすく、結果として布全体の均一性・透明感・光沢の一体感
が生まれます。
江戸かんざしの品質を裏付ける要素です。